私情つうしん 第7号 1996年6月発行
この人に聞きたい!
森まゆみさん

地域雑誌『谷中・根津・千駄木』編集人、作家
ふるさとってなんですか?
ふるさとについて聞くならこの人だ、と思っていた。自分の生まれ育った町をフィールドにした地域雑誌を編集・刊行しているくらいだから、さぞかし「ふるさと」には思い入れがあるだろう、と勝手な憶測をしていた。
「ふるさとっていうのは、遠さの自覚よね。『とおくにありて思ふもの』っていう」
ふるさとってなんだと思いますかという単刀直入な質問に間髪を入れずに森氏は答えてくれた。
「そこへいくと、私はずっとこの土地で過ごしてきているわけで、遠くから思っているわけじゃないけれど。でも、ここはふるさとだと思いますよ。『ふるさと』という言葉を聞いてパッと思い起こすのは、やっぱり山とか川とかあぜ道とかかな。兎追いしかの山みたいな、ね。個人的には、夜店のアセチレンガスのにおい。『今、ここにないもの』『なくなってしまったいろいろなもの』。それがふるさとっていうものなんじゃないかなあ」
ふるさとが「遠さの自覚」だとするなら、それは空間的な距離というよりは時間的な隔たりを指すのだろう。愛着を持つのは、土地にではなくて、自分がかつて生きた時間に対してだ。今、もうここにはない、過ぎ去った日々。それが、ふるさとだ、きっと。
「ふるさとはどこですか」と今度聞かれたら、何と答えようか。
by 大山智子
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