私情つうしん 第5号 1996年2月発行

ヤポネシア・ランドに、裏口から入ってみる。天皇が京都に移って以来、ヤポネシアの表口は関西となっているが、裏口はそれ自体がテーマパークとなっていることもあり、どちらかというと人気が高いのである。その名をNRTと言う。第4期拡張工事を終えた今、この国際空港には6本の滑走路があるが、空港に着いた者が最初に目を止めるのは、"out of order"と大書された管制塔(のようなもの)だろうか。ここはかつてこの空港が最初にオープンしたその時、「カゲキハ」と称されるグループに襲撃された記念碑である。
現在はその当時破壊されたままにアンティークな管制機器などが再現され、常に火事の模様が演出されている。ターミナルビルを出ると、すぐ目の前、というよりも空港の敷地の中に、「三里塚メモリアル」というテーマパークがある。「櫓」と呼ばれる木製のシンボルタワーの下では、重武装の「キドウタイ」と、ヘルメットをかぶり手ぬぐいで顔を隠した「カゲキハ」の二手に分かれたキャストがつねに押し相撲を演じている。観客は、すべて当時の農民の衣装を貸し出され、当時の若者のエンターテインメントを観賞するのである。これがこの空港の最大のモチーフとなっている。空港のエリアを出てもしばらくはキドウタイの姿を模した立て看板があちこちに立っていて、目を楽しませてくれる。時々はキャストの人間もまじっていて、運よく彼らに遭遇できた観光客は、車を止めて身分証明を提示する楽しみを味わうこともできる。
NRTから、戦後しばらくまでの日本の首都、トウキョウまでの道のりは、まさに現在のヤポネシアを象徴するような、テーマパーク銀座となっている。藤の花に囲われた高速道路をしばらく走ると、まず見えてくるのはマクハリである。ここはアメリカのシリコンバレーを模したテーマパークで、高層ビルが立ち並び、ハイテク・ビジネスの雰囲気を味わうことができる。時間の余裕がある人は、ここで「メッセ」と呼ばれる施設を見学するといい。ここは現在のヤポネシアが提供しているさまざまなテーマパークの一大見本市となっている。近所には、バレンタインスタジアムという野球場などもあり、観光客が9人揃えばいつでも姑息な日本式野球の洗礼を受けることができる。簡単にルールを説明しておくと、投手は必ず変化球を投げること。また投球間隔は、サイン交換の儀式のため、必ず3分以上でなければならない。一方、打者はバントしかしてはいけないことになっている。
さらに高速道路を進むと、スキーパーク、そして東京ディズニーランドが見えてくる。とくに後者はすっかり人気が醒めてしまっているが、前世紀以来の古典として好事家には興味深いものがあるかもしれない。これを尻目に車を駆っていくと、だれしもスピードが落ちてくるのに気がつくであろう。そう、ここは首都高速駐車場と呼ばれる、トウキョウの誇るテーマパークである。渋滞につぐ渋滞の渦の中では、世界中のメーカーが製造した自動車の数々を目にすることができるが、このテーマパークは世界でも数少ない「退屈」という趣味を中心にしたものである。騒音、排気ガス、さらには光化学スモッグなどのアトラクションもある。こうした演出効果を出すために、数多くのキャストが車列に加わっている。もし車の中で急に尿意を催した場合などは、隣の車をノックしてみるといい。トランクの中を簡易トイレに改造したキャストの車も数多くまじっているはずだからである。
ことほどさように、関東エリアのテーマパークは、退屈、混雑、不便など、人の不快感を刺激するアトラクションが多いのが特徴である。こうした挑戦を一つ一つ乗り越えていくという、まったく新しいサバイバルゲーム感覚の娯楽を、すべてに飽きてしまった日本人ユーミン達は生み出したのであった。
トウキョウでは、宿舎も豪華なものを期待してはいけない。パレス・ウサギ小屋、馬小屋キャッスル、デラックスワンルームなどという名を冠した人気ホテルでは、部屋は世界標準と比べればやっと一人の人間が寝起きできる程度になっている。それを数人のグループで共用するのが醍醐味である。
1人当たり1.8×0.6メートルという広さ(1ジョウ)が基本で、こうした過密さがヤポネシアならではの旅情を生む。それよりも過激にもっともヤポネシア的なものを味わいたい向きは、さらに狭いカプセルホテルを体験してみるのも一興である。まるで棺桶のようなベッドに寝て、しかも上からプラスチックの蓋まで閉めてくれる。広所恐怖症の治療には最適である。朝起きると、必ずだれかが自分の顔をのぞきこんでいる。食事を取るときも隣の人の皿と自分の皿が触れ合わないように気をつける。
それが無意識にできるようになれば、いよいよE電を体験する準備ができたことになる。超過密なこの列車の体験は、対人恐怖症の治療になるとされているが、自分が人間であることを忘れさせてくれるほど衝撃的である。試しに両足を床から持ち上げてみても、自分の体が宙に浮いているのに気がつくであろう。周囲の人の体による圧力で支えられているのである。そのままトウキョウをぐるり一周、ちょうど62分のスポーツ・ライドである。窓の外にはトウキョウの風景があるが、体力に自信がある人は挑戦してみるといい。背後に受ける何十人もの人間の圧力を押し返しながら楽しむ地上の眺めはここだけのものである。
まったく、日本人ユーミンたちの、新しいアトラクションを創造するために発揮される独創性には脱帽するばかりである。
このヤポネシアの教育を次回から糾弾する!
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