私情つうしん 第4号 1995年12月発行
世界観を変えたコーヒーバッグ
by 大山智子
ある日のことである。アメリカ製のティーバッグならぬコーヒーバッグで入れたコーヒーをすすっていた。カップにお湯を注いでコーヒーバッグを泳がすと、インスタントくらい楽チンで、インスタントよりおいしいコーヒーが飲める、といういかにもアメリカ人の考えそうなお手軽グッズである。
それはさておき、問題はそのコーヒーバッグのパッケージだ。個別に包装されたコーヒーバッグは、箱づめされている。ひと箱19個入り。19個。なんという中途半端な数。もし、このコーヒーバッグが20個入りだったら、きっと個数なんかには目も留めていなかったにちがいない。だいたい5の倍数、10の倍数というのは非常に心地いい。それでなければ18個入りだ。2で割り切れる数、3で割り切れる数というのも、おさまりがいい。ところが、どうしたわけか20には1足りず、割り切れる数といえば1か19か、という数である。安定感のない不協和音を聞かされているようでいたたまれない気分になった。
そもそもこれはアメリカ製品だ。きちんと、きれいに、几帳面に、が美徳で痒いところに手が届くばかりか痒くなるところを先回りして掻くような日本で作られた製品だったなら、19個などという不可解な数で消費者を困らせるようなことはきっとしないだろう。調和のとれた20個入りにするにちがいない。まったく、これだからアメリカのやることは。
とはいえ、なぜ、19個入りでなければならないのかを知らない間は、頭の中であの不協和音が鳴り響く。よし。
「May I help you?」
トールフリーのお客様相談ダイヤルの番号を回す。
「ちっ、ちょっと、変な質問かもしれないんですが……」
いたずら電話と思われて、相手にされずに切られてしまっては元も子もない。
「実はコーヒーバッグがなぜ19個入りなのか、と。20個や18個なら納得いくんですが」
「そういう質問はあなたが初めてではありません。製品を作るにはパレットというものがあるんですが。わかりますか、パレット。箱は、そのパレットの規格に合わせて作っているわけです。もし20個入れるための箱を作ろうとすると、既製のパレットのサイズでは収まらないので新たにパレットから作り直さなければなりません。するとコストがかかるわけです。ですから、最初に箱があって、そこに入れる適正なコーヒーバッグの数を逆算すると19個ということになるわけです」
このバカバカしい問い合わせが初めてではないというのも驚いたが、たらい回しを予想していた私は、立て板に水のように回答するオペレーターに機先を制された気分だった。
「おわかりになりましたか。ところで、ご参考までにお伺いしますが、お客様はどちらからおかけでしょうか」
「……。あの、遠いんです」
「ああ、ハワイですか」
「いえ、トウキョウなんです」
「ハッ? …………」
してやったり。その日、私がきっとお客様相談ダイヤル室の話題の人物であったことは間違いなしである。
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