私情つうしん 第18号
1999年10月発行
帰国子女の日本文化への再適応過程
および精神保健に関する調査研究
帰国子女研究会
秋山 剛
(精神科医)
石井千賀子
(異文化カウンセラー)
磯貝友子
(慶應大学講師)
古家 淳
(帰国子女ジャーナリスト)
森吉直子
(ペンシルベニア大学院生)
本研究は三菱財団の援助を受けて質問紙によって行われたもので、『私情つうしん』の読者からも数多くの回答を寄せていただきました。ここに感謝の意を込めて研究の第一次まとめを掲載します。
1.研究の背景・目的
わが国におけるこれまでの帰国子女問題の研究は、学校環境への適応など教育問題に焦点が限定され、調査対象も小学生から高校生がほとんどであった。本研究では、高校生から成人までの各年令層にわたる帰国子女が、海外滞在体験、帰国後の体験をどのようにとらえているか、現在の自己のあり方にどの程度満足しているかなどについて調査した。
2.研究の対象
研究では、帰国子女群および周囲群を対象とした。帰国子女群は、5才から18才の間に、親に帯同されて2年以上外国に滞在した高校生から成人を対象とし、帰国子女を受け入れている高校、予備校、大学、帰国子女の自助的サークルから調査への協力を得た。また、帰国子女群には相談事例群が含まれ、帰国子女を受け入れている高校や大学の相談室、東京英語いのちの電話面接部門のカウンセリングの受診者を対象とした。周囲群は、帰国子女を受け入れている高校や大学の非帰国子女生徒を対象とした。調査に対して、帰国子女群512名《男性182名(36%)、女性315名(62%)、性別無回答15名》、うち相談群53名《男性13名(25%)、女性40名(75%)》、周囲群490名《男性198名(40%)、女性291名(60%)、性別無回答1名》から回答を得ることができた。
3.研究の方法
帰国子女群には、海外滞在に関する基本的データ、親との関係、海外滞在中の援助資源・日本との接触度・親の文化的性向、帰国後のクラス状況・適応努力・帰国子女としての疎外体験、受容体験、帰国当時の症状、海外滞在体験の活用度、文化的同一性、自己への総合的満足度などについてたずねた。周囲群には、帰国子女との接触度、接触における違和感や受容度、将来海外渡航時に子供を帯同したいか、などをたずねた。
4.研究の成果
帰国子女群の年令は15〜71才までかなりの幅に分布した。滞在国は北米、ヨーロッパが多く、学校で話していた言語は主に英語であった。通算海外滞在年数は、6年以上の長期に及んだものが276名(54%)おり、また現地校に通学していたものが336名(66%)みられた。
親との関係では、105名(21%)が渡航前に親から渡航について説明されていなかった。
帰国後、458名(89%)が周囲との違和感を感じ、411名(80%)が帰国子女として特有の扱いを受けたと述べている。仲間外れについては、帰国当時で100名(20%)、現在は23名(4%)が体験している。
現在の自分のあり方には277名(54%)が相当程度以上に満足し、306名(60%)が日本人に生まれてよかったと述べている。また、245名(48%)がどこの国でも生活していける、466名(91%)が自分が海外赴任する際には子供を帯同したいと述べている。
「自己への満足度」は、有意水準0.1%で13項目、1%で10項目、5%で6項目と多数の項目と相関を示した。各項目の中では、「日本人としての出生」が「自己への満足度」にもっとも強い影響を示し、ついで「世界各国での生活能力」「帰国前の親との話し合い」「帰国子女体験の活用度」「帰国当時の苦労」の順で強い影響がみられた。
「日本人としての出生」で「日本人として生まれて非常によかった」、「世界各国での生活能力」で「どこの国でも生活していける」、「帰国前の親との話し合い」で「非常に話し合いがあった」と答えた群が、高い自己への満足度を示した。「帰国子女体験の活用度」では、活用している分野の数は0〜11に分布し、活用分野を8項目あげた群が高い満足度を示した。「帰国当時の苦労」では、「非常に苦労した」とする群に高い満足度を示す傾向が見られた。
年令を群分けして分析すると、滞在国、現地での通学校、親との関係、海外滞在中の帰国回数や平均期間、帰国後の教育環境、帰国子女としての疎外体験、文化的同一性などの項目と相関が見られた。若年層の特徴として、現地での学習塾への通学が多い、海外滞在中の相談事を親に頼らない、帰国後のクラスに帰国子女が多い、帰国子女としての違和感や仲間外れを余り経験していない、帰国子女としての体験を現在の活動に余り生かしていない、日本人としての出生に否定的な見方が少ない、などの傾向がみられた。
対象が53名と少数であり一般化には慎重を要するが、相談事例群の特徴としては、平均滞在国数が多い、帰国時の年令が高い、国際校への通学経験が多い、日本人対象の補習授業校への通学経験が少ない、海外滞在中の親との話し合いで気持ちを受けとめられたと感じていない、帰国前に親との話し合いがなかった、現地文化になじむよう親に援助されなかった、帰国子女としての違和感や仲間外れを多く経験し適応に困難を感じている、帰国当時精神症状や身体症状を多く経験している、海外滞在中・帰国後とも嫌だと思ったことがらが多い、一方、帰国後に行っている活動や楽しいと思ったことがらが多い、などの傾向がみられた。
周囲群の年令は18才以下が292名(60%)、18〜22才が183名(37%)、23才以上が15名(3%)という分布を示した。接した帰国子女は1〜200名まで幅があり、平均は20名であった。「帰国子女の考え方はかなり違う」と答えたものは51名(10%)、「帰国子女との接触でかなりとまどった」と答えたものは26名(5%)にとどまった。また、401名(82%)が「帰国子女との接触で何かよいことがあった」、340名(69%)が自分が海外赴任する際には子供を帯同したいと述べており、帰国子女に対する感じ方はかなり肯定的、受容的であることがうかがわれた。
5.総括・今後の課題
帰国子女群では、海外滞在がかなり長期に及ぶものや現地校に通っているものが多いこと、渡航前に親から説明されなかったものが相当数いること、が示された。
各年令層で経験に差があり、若年層については、以前ほど海外渡航や帰国が「体験の断絶」ととらえられていない傾向がうかがわれた。
一方、現在でも帰国後に違和感、仲間外れを経験するものが相当見られ、帰国子女の円滑な受け入れになお一層の努力をはらう必要があることが示された。
帰国子女群では、日本人としての出生を受容したうえで「世界各国で暮らしていける」という自信が、「自己への満足度」に結びつくことが示された。また、親との話し合いの改善や帰国後に海外滞在体験を活かす場が提供されることの重要性が示された。
相談事例群については、親からの現地の文化になじむようにとの援助なしに現地校・国際校に通い、親との話し合いが少なく、帰国後には多くの困難に出会いながら、楽しみを見つけるように努力しているといった傾向がうかがわれた。
周囲群は概ね帰国子女に肯定的、受容的な見方を示していた。
上記の結果から、帰国子女の受け入れは全般的には改善が進んでいるものの、海外へ子供を帯同する親へのオリエンテーション、帰国後の帰国子女へのサポートシステムの提供が重要であることが示唆された。今後は、こういった問題への取り組みを検討課題としたい。
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