私情つうしん 第1号 1995年6月発行
OとFとの往復書簡
この欄は、これから大山智子(O)と古家淳(F)の間の往復書簡という形で連載にしていく予定です。二人とも帰国子女、世代は違っても月刊「海外子女教育」誌などを舞台に帰国子女教育、国際理解教育などを中心にした問題意識のなかで文章を書く仕事をしています。
折々にもった疑問を互いに問い、互いに答えていくなかで自分たちの考えを深めていくことができればと思って始めます。
飛び入り参加も歓迎しますので、どなたでも気軽に割り込んできてくれたらうれしいと思います。
「帰国子女」をどう英訳する?
第1信−−FよりOへ
先日、日本でジャーナリストをやっているアメリカ人の友達から、奇妙な質問をもらいました。
「(中国)残留孤児のことを、英語で何と言うか知っているか?」というのです。
答えられませんでしたが、そのときに思い出したのは、「帰国子女」も英語になりにくいコトバだということです。
従来、帰国子女のことはreturneeという呼びかたでいうことが多いようでした。でもこれは、明らかに和製英語だと思います。たしかにこの単語は英語の辞書にも載っていますが、意味はまったく違うようで、いわゆるネイティブ・スピーカーに尋ねてもまるで違うイメージが浮かぶそうです。単純にいえば、戦場から帰還した兵隊、あるいは刑務所から釈放された囚人、というのがreturneeという単語の持つ一般的なイメージのようです。
たしかに現象自体、かなり日本独特の現われかたをしているテーマですから、これを外国語で簡潔に表現するのは難しいでしょう。
実は1985年5月26日のNew York Timesに、アメリカの帰国子女たちを受け入れるマサチューセッツ州にある全寮制の高校の話が出ています。まるで同時期の日本の話と同じように、外国で育ったアメリカ人の子供たちが母国で外国人のように扱われるという問題を紹介していますが、ここではこういう子供たちのことをexpatriate studentsと表現しています。expatriateとは直訳すれば「母国を離れる、亡命する」という意味ですから、かつて日本語でも海外にいる子も帰ってきた人も含めて「海外子女」と呼んでいたことに呼応すると思います。
ところで最近、日本では海外子女のことをexpatriated childrenと英語で言っているようです。これはかなり優れた中立的な表現のようですが、では「帰国子女」は? ex-が「外へ」ならば、「再び」の意味のre-をつければいいのではないかと考え、ぼくは repatriated childrenというコトバを思いつきました。ちゃんと辞書(手元で調べたのはThe American Heritage Dictionaryですが)にも載っていて、「母国に帰る」という意味です。余談だけど、ほら、ハリソン・フォードが主演した映画、「パトリオット・ゲーム」のpatriotは英語で「愛国者」ですよね。patriaといえばスペイン語では「祖国」です。もともとはラテン語の「父」と同根、日本では祖国のことを「母国」といい、ラテン系の言語では「父の国」というのはおもしろい対称です。
本題に戻ります。expatriated children、略してexpatsで海外子女、そしてrepatriated children、略してrepatsでいわゆる「キコク」。カタチも似ているし、childrenのところを置き換えれば「帰国ママ」にも「海外パパ」にも使えるところがミソです。
ところで、冒頭の質問にぼくは、repatriated childrenというコトバを紹介したうえで、それならば残留孤児はdepatriated orphansでどうかと提案しておきました。これは手元の辞書には載っていませんが、de-のもつ否定的なニュアンスがあの人々の悲惨な体験を表現できるのではないかと考えました。
さて、この往復書簡はQ&Aの形式にしようと、打ち合わせていましたよね。それでぼくとしてはここで一つOに質問をださなくてはいけないのですが、実はあまりいい質問を思いつけませんでした。まずは上記への感想を聞きたい、というのがナケナシの質問の一つです。そしてもちろん、「帰国子女」というコトバについての思いも書いてもらえれば、と思っています。それではお返事お待ちしています。
(F)
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